相続分なぎことの証明書に実印を押捺して印鑑証明書を添付すると、
相続人はこれにより被相続人の不動産を相続人名義に相続登記することができるようになります。
被相続人の負債があることも考えて、被相続人の遺産も負債も相続しないというのであれば、
相続放棄の手続きをとった方がよく、また被相続人の遺産を相続したい場合には、
他の相続人と遺産分割協議書を作成した方がよいでしょう。
相続分なきことの証明書とは他の相続人が送ってきた「相続分なきことの証明書」というのは、
「特別受益証明書」とか「相続分皆無証明書」とも呼ばれているもので、通常つぎのような文面になっています。
例えば、
「私は、被相続人から生前に財産の贈与をうげており、被相続人の遺産分割についてうげるべき相続分はありません」
といった内容が多く見られます。
この「相続分なぎことの証明書」は、
不動産の登記実務において、相続登記をするについての原因証書として扱われています。
すなわち、共同相続人のうちの1人もしくは一部のものが作成した「相続分なきことの証明書」
と作成者の印鑑証明書を添付して、他の相続人が自己名義に相続登記を行うよう申請すると、その旨の登記がなされます。
つまり、「相続分なきことの証明書」を作成した相続人は、当該不動産について何も相続しないことを認めたものとして扱われ
他の相続人はこの証明書を添付して自己の名義に登記申請がでぎることになります。
証明書の効力
このように相続分なきことの証明書は、簡便に相続の登記ができることから、よく利用されているようです。
しかし、この証明書の法的性質が不明確なことから、その効力について次のような問題が生じています。
証明書には、私は生前に財産の贈与をさげているとか、うげるべき相続分はありませんと書いてあります。
しかし、ほとんどの場合、このょうな事実はなく、実際には贈与をさげていなかったり、
うけていてもさらにうげるべき相続分が残っていたりする例が多くあります。
したがって、この証明書が事実を証明するものだとすると、
その内容は虚偽の説明ということになってしまうため、証明書の効力、
ひいては証明書による登記の効力について疑問が生じます。
この点について、判例の主流的な立場は、証明書は事実の証明書ではなく
真実の事実関係と符令していなくても効力があるとしています。
そして証明書の法的性質は、事実関係により、
①共有持分の贈与もしくは放棄、
②相続分の譲渡もしくは放棄、
③遺産分割協議の成立(全部の遺産もしくは一部について)と解されます。
したがって、証明書の作成にあたって、署名・押印が偽造であるとか、詐欺や強追はより、
あるいは錯誤により作成したといった事情がないかぎり、証明書は有効であり、また証明書による相続の登記も有効です。
ご質問の場合でも、証明書に自分の意思で印鑑を押して兄に渡すと、父の遺産である不動産だけでなく、
その他の遺産についても、相続しないという意思を明らかにしたと認められる可能性が強いと思われます。
相続分なきことの証明書の間題
相続分なきことの証明書の効力は多くの場合認められるものですが、なお次のような問題が残っています。
まず先ほども指摘しましたが、証明書の作成者が証明書作成の意味を十分理解していない場合などには、
後になって証明書の効力が争われ、遺産分割のやり直しを求められることがあります。
また、証明書により不動産の登記手続きを終えた後にその他の預金や株券などの遺産の分割方法が定まらず
相続人間での争いを残すこともあります。
さらに、被相続人に借金等の負債があった場合
相続分なぎことの証明書は負債を相続人中の誰が承継するかということに対しては効力がありません。
証明書を作成して不動産を相続しないということになった相続人であっても、
負債は相続分に従って負担しなくてはなりません。
この点が、家庭裁判所へ正式に相続放棄の申述をする手続きをとった場合と異なります。
正式の相続放棄の手続きをとれば、遺産を取得しないだけでなく、負債も引き継がないことになります。
被相続人の遺産を相続しないというのであれば、相続放棄の手続きをとった方がいいでしょう。
そうではなく、遺産の一部を相続したいというのであれば、きちんと遺産分割協議書を作成した方がいいでしょう。
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