身内が亡くなった場合、必ず発生するのが「相続」です。相続人になったら絶対に財産を引き継がなければならないかというと、そうではありません。「相続放棄」という手続きをとることで、相続人としての権利を辞退することができるのです。ここでは、相続放棄とはどのようなものかに加え、相続放棄をするべきケースを4つ紹介します。
相続放棄とは?
「相続放棄」とは、被相続人(亡くなった人)の財産を相続しないで放棄することをいいます。手続きをするには相続放棄申述書とともに、被相続人との相続関係を証明する除籍謄本、改製原戸籍、戸籍謄本を揃えて、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てる必要があります。
相続放棄をすると、プラスの財産を受け取ることはできませんが、借金などのマイナスの財産も受け取らなくて済みます。ただし、被相続人の借金は放棄できますが、自分が被相続人の連帯保証人になっているような場合、連帯保証の解消は不可能です。
また、後から相続放棄を撤回することは原則としてできません。後々、多額の財産があることが発覚しても、受け取ることはできません。さらに、相続放棄の手続きができるのは、原則として、相続開始を知った日から3か月以内と定められています。それまでの期間に、相続するか放棄するかを判断する必要があるため、放棄した方がよいケースを知っておくと安心です。以下に、相続放棄を検討した方がよい4つのケースをご紹介します。
ケース1・債務を相続したくない場合
被相続人の債務がプラスの財産よりも多い場合
相続放棄をした方がよい代表的なケースです。財産を手放すことになる代わりに、多額の債務を背負わなくてもよくなります。
被相続人が知人の保証人になっていた場合
被相続人自身には債務がなくても、知人の保証人になっていたような場合には、相続放棄をした方がよいこともあります。相続の際には、被相続人の保証債務も引き継がれます。借主が借金を完済できなかった場合に、返済が降りかかる可能性があるのです。
相続人自身に債務がある場合
相続人自身が債務超過状態のケースも、相続放棄をする方がメリットがある場合もあります。財産を引き継げば返済に回さなければなりませんが、放棄すれば、他の相続人ですべての財産を分割できるからです。
ケース2・相続税対策をしたい場合
相続放棄をすることで、将来の相続税対策になる場合もあります。
二次相続を考慮した相続放棄
例えば、独身で子どもがいない長男が死亡し、母と次男が遺された場合、相続人は母です。長男の財産がおよそ3,000万円あったとします。相続税の基礎控除額は【3,000万円+600万円×法定相続人の数(母1人)=3,600万円】となるので、このケースでは相続税は発生しない見込みです。
しかし、母にもまとまった額の固有財産がある場合、相続放棄したほうがいいケースに当てはまる可能性があります。例えば、母の固有財産が2,000万円あったとすると、母が死亡した場合に次男が受け継ぐ財産が2,000万円+長男からの相続分3,000万円=5,000万円となり、多額の相続税が発生する可能性があります。
このケースで、母が相続放棄をすると、長男の遺産はすべて次男が相続します。長男→次男の相続額3,000万円、母→次男の相続額2,000万円となり、いずれも相続税を課税されずに相続できることになるのです。
ケース3・事業資産を後継者に相続させたい場合
被相続人が事業を営んでいて、スムーズな事業の継続のために、事業に関する財産を継承人のみに引き継ぎたいという場合、継承人以外が相続放棄をするという方法もあります。
このようなケースや前述の節税対策を視野に入れたケースにおいては、相続放棄の手続きをとらずに、当事者同士の「遺産分割協議」によって「財産放棄」をする方法もあります。相続放棄の手続きは、家庭裁判所への申し立てが必要ですが、「財産放棄」の場合は、遺産分割協議書さえ作成すれば、面倒な手続きは不要です。被相続人の債務状況や相続人同士の関係性などにもよりますが、選択肢の1つとして知っておくとよいでしょう。
ケース4・他の相続人とかかわりたくない場合
相続が発生すると、たとえ「財産はいらない」と表明していたとしても、他の相続人と没交渉でいることは難しくなります。話し合いや名義変更などの手続きのたびに駆り出されたり、実印や印鑑証明が必要になったりと、何かと他の相続人と関わる機会は多くなってしまいます。
あらかじめ相続放棄をしておくと、相続人ではなくなるため、話し合いや手続きに関わる必要がなくなります。また、兄弟間や親族間の仲が良いとはいえず、相続に際して揉めることが予想される場合も、揉め事に巻き込まれないための手段として相続放棄は有効です。
メリット・デメリットの見極めが大切
相続放棄をすると、ケースによっては大きなメリットがありますが、デメリットが生じる場合もあります。「相続放棄とは」の項目でも触れたように、民法上、相続放棄の手続きができるのは、相続開始を知った時点から原則として3か月以内と定められています。考えられる時間はあまり長くありませんが、受け継げる見込みの財産とトラブルのリスクをよく比較して、相続か相続放棄かを選択しましょう。
今回紹介したのは、相続放棄を検討するべきケースのうちの、ごく一部に過ぎません。相続放棄をすることが最良の手段かどうかは、ケースによって異なります。3か月という短い期間のなかでベストな選択をするために、まずは、弁護士など、相続に詳しい専門家に相談してみることをおすすめします。
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